本日2026年5月25日のWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)に、少し気になる記事が出ていた。
修士号を持つ若い社会人の失業率が、過去20年間でほとんど見られなかったほど高い水準に達しているというデータだ。「大学院で学び直せ」という文句はどこにでも溢れている。MBA、データサイエンス修士、AI関連の専門学位。学歴を積み直すことで、厳しい雇用環境を乗り越えられる、そういう前提が少なくとも欧米では揺らいでいるかもしれない、というのがこの記事の主旨だ。
日本の動向は、欧米の動向に従うことが多い。今後このような事象が日本で増えてくることを想定する必要がある。
自分自身は修士号を持っていないが、今の仕事で求められることを考えながら、Courseraを使って学び続けている立場として、この記事は他人事には読めなかった。少し長くなるが、データを整理した上で自分なりに考えたことを書いてみた。
筆者について
・地方国立大学出身。
・Corporate Financeに詳しいです。
・現在、日系投資事業会社にて経営企画・IR業務に従事。
・IELTS 6.5(今年中に7.0取得を目標に学習中)。
・CFA Level 1保有。Coursera歴3年、累計受講講座数20以上。
・Coursera Plusを使って、金融・テクノロジー分野を中心に継続的に学習しています( ´∀` )。
今回の記事はこちらです
修士号保持者の失業率が過去最高水準にある
WSJが引用しているのは、バーニンググラス研究所(Burning Glass Institute)の分析だ。同研究所は米労働統計局(BLS)のデータを2003年まで遡って分析しており、35歳未満の修士号保持者の失業率が現在、過去の分布で見て77パーセンタイルの水準にあると報告している。通常の水準が50パーセンタイルであることを考えると、かなり高い。過去20年間でここまで悪かったのは、全体の4分の1程度の期間しかないという。
さらに気になるのが、比較の対象だ。この1年間、準学士号(短大相当)保持者の方が修士号保持者よりも就業率が高い状態が続いているという。「修士号より准学士号の方が就職に困っていない」という状況は、少し前だったら想像もできなかった。
一方で、博士号・法学位・医学位を持つ35歳未満の失業率は逆に低く、ほとんど見られなかったほどの低水準にある。同じ高度な学位でも、修士号だけが悪化しているという構図だ。同研究所のチーフエコノミスト、ガッド・レバノン氏はこう述べている。
過去20年間の大半の期間、これらの数値は連動して動いていたが、もはやそうではなくなった
なぜ修士号の価値が下がっているのか
レバノン氏は一つの仮説を提示している。「修士号を持っていることによって本来得られるはずだったポジションの数が減る一方で、そうした学位を持つ人ばかりが増えている」というものだ。
この仮説を裏付けるデータがある。米高等教育・経済研究センターの報告書によると、修士課程プログラムは過去20年間で急増しており、特に2005年から2021年の間に69%増加し、現在は33,500以上のプログラムが存在する。さらにこの5年間でも多くのプログラムが新設されており、その多くはAI関連の再教育に焦点を当てている。
従来の経営学修士(MBA)に加えて、オンラインMBA、データサイエンス特化、医療経営特化、1年制ビジネス学位といったプログラムが次々と登場している。社会福祉や医療専門職など、さまざまな分野での大学院進学者も増えている。学位を取る人が増え、種類が増え、取得ハードルが下がった。結果として、「修士号を持っている」というシグナルの意味が薄まっていく。
レバノン氏はこう言い切っている。「法科大学院や医科大学院の学位は、その専門職に就くための資格に相当するが、修士号は能力を示すシグナルのようなものに過ぎない。あまりに多くの人が同じシグナルを持つようになると、その価値は低下する。良い仕事を確保するための確実な切り札とは、とても言えない」
採用担当者の意識がはっきり変わってきている
もう一つ、記事の中で気になった数字がある。ドレクセル大学のルボウ・カレッジ・オブ・ビジネスが今年実施した調査によると、雇用主の40%以上が「今年はMBA取得者を採用する予定はない」と回答している。2025年の26.8%から大幅に増加しており、1年でこれだけ変化したということだ。
SHRMの代表、ジョニー・C・テイラー・ジュニア氏はこう述べている。「あらゆる兆候が示しているのは、採用担当者は今や、有能さに大学院の学位は必要ないという考えをかつてないほど受け入れるようになっているということだ」。そして、AIの普及を背景に、学位よりスキルを重視する姿勢が急速に強まっているとも指摘している。
「特にAIが普及したこの2、3年で明らかにその傾向が見られる。雇用主が知りたいのは『その仕事をできるのか?』に尽きる」
これはアメリカの話だが、日本でも似たような方向性は感じる。経営企画の仕事をしながら採用の議論に関わることがあるが、「どこを出た」よりも「何ができるか」という話が増えてきているのは確かだ。
AIが変えたのは、何を「価値あるスキル」と見なすかということ
AIの普及がスキルベースの採用を加速させているという指摘には、実感がある。
AIによって、これまで専門的な知識を必要としていた作業の一部が自動化・補助されるようになった。コードを書かなくてもアプリのプロトタイプが作れる。財務モデルの下書きをAIが出力する。法律文書の要点をAIがまとめる。こういった変化が進む中で、「この分野の大学院を出た」という資格よりも、「今、実際にこの仕事ができる」という証明の方が採用側にとって直接的に価値を持つようになるのは、自然な流れだ。
そして逆説的に、AIが普及すればするほど「人間が判断する」ことへのプレミアムは上がっていくとも感じている。AIは大量の情報を処理して候補を出すことは得意だが、最終的にどの判断を下すか、クライアントにどう向き合うか、組織の中でどう合意を形成するかというところはまだ人間が担う部分が大きい。AIが知識のコモディティ化を加速させるとしたら、価値が残るのはその知識を使って何を判断し、何を生み出すかという部分ではないか。
学位に証明を頼るのが難しくなった時代に、自分に何が残るかを考えるとすれば、それは「実際に判断してきた経験」と「複数の領域を横断して考えられる知識の幅」だと思っている。
一つの専門性では足りなくなっている
ここが個人的に最も考えさせられた部分だ。
修士号の価値が下がっているとしたら、それは「一つの分野を深く学びました」というシグナルの価値が下がっているということでもある。そしてそれは、学位の話だけでなく、スキルの考え方にも言えることだと思う。
私自身の話をすると、経営企画・IR業務をしていると、財務の知識だけでは足りない場面が多い。テクノロジーの動向を把握していないと、企業価値の評価が甘くなる。英語ができないと、重要な一次情報にアクセスできない。CFAで数字の議論はできても、その企業が属する産業の構造を理解していないと、判断の精度が落ちる。
何か一つの専門資格を持っているということより、複数の領域にまたがった知識と経験を持っていることの方が、実際の仕事では役に立っている感覚がある。そしてそれらを組み合わせることで、一つの領域の専門家には出せないアイデアや視点が生まれる。
修士号を取る代わりに、複数の分野を横断的に学び続けることは今できる最善のことなのではないかと考えている。
Courseraで続けている理由
私がCoursera Plusを使い続けているのは、費用対効果だけが理由ではない。学んでいる内容が、今の仕事に直接役に立っているからでもある。
Coursera Plusで学んでいる主な理由は三つある。
1 英語力の向上
英語のネイティブ講師が専門的な内容を話す講義を週に数時間聴き続けることで、アカデミック英語のリズムと語彙が自然に積み上がっていく。現在IELTSの6.5から7.0を目指しているが、Courseraの受講はそのリスニング対策として実質的に機能している。Googleのエンジニアや世界の大学教授が話す英語を継続的に聴くことと、IELTSのアカデミックリスニングで問われる英語は、構造が近い。
2 国際的な共通言語の習得
金融とテクノロジーの分野では、英語で議論されたことが世界のスタンダードになる。日本語のビジネス書で同じ内容を追うと、どうしても情報の鮮度と一次性が落ちる。CourseraではDeepLearning.AI、Yale、UCバークレー、Googleといった機関が直接提供する講義を英語で受けられる。これが、業界の動きを早めに掴む上で役に立っている。
3 コミットメントの積み重ねとしての証明
一度で終わる学習ではなく、3年以上継続していることそのものが、一定の意味を持つと思っている。修士号のような大きなシグナルの代わりになるかはわからないが、学び続けているという姿勢は、仕事の中でも外でも伝わるものだと感じている。
費用についても書いておくと、CourseraはGoogleやYale、Microsoftが提供する個別の講座を単体で購入すると、1講座あたり数千円から1万円前後かかるものが多い。Coursera Plusの年間プランは$399(約6万円前後)で、対象となる1万以上の講座が受け放題になる。私が3年間で受けてきた20本以上の講座の費用を単体で計算すると、年間プランより遥かに高い金額になっていた。月額プランの$59から始めて、受けたい講座を短期集中で終わらせる方法も現実的だ。
ただ、Plusが向いていない人もいる。1〜2本だけ特定の講座を受けたいという場合は、月額プランで短期間に終わらせた方が安い。スピーキングを鍛えたいというなら、英会話アプリと組み合わせる必要がある。Plusは「継続的に複数の分野を学び続けたい人」向けのプランだという前提は変わらない。
学位の代わりに何を積み上げるか
WSJの記事が言いたいのは、「修士号を取るな」ということではないと思う。そうではなく、「学位を取れば安心」という前提で考えていると、想定外の結果になるリスクがある、ということだ。
法学位や医学位のように、その資格がないと業務に就けない分野は別だ。しかしそれ以外の分野で「修士号を取ればキャリアが保証される」という考え方は、少なくともアメリカでは機能しなくなっている。
AIによってスキルの陳腐化が速くなっている時代に、学び直しは一度完結するものではなく、継続するものになる。修士号を取るために数百万円と数年間を使うことが最善かどうかは、それ以外の選択肢と比べて冷静に判断する必要がある。
複数の分野を横断的に理解していて、それを組み合わせて考えられる人間は、特定のスキルが陳腐化しても対応しやすい。AIが知識をコモディティ化するとしたら、単一の学位が証明するものの価値は下がり続ける。逆に、継続して学び、複数の領域をつなぐことができる人間に、これからプレミアムが乗るのではないかと思っている。
それが今、Courseraで続けている理由の一つでもある。
▼ Coursera Plus 公式(7日間無料トライアルあり)
https://imp.i384100.net/nXjNJ6
「お気に入り」追加済みの記事
